MaaSとラストワンマイル―多様なモビリティニーズを支える地域ネットワークの構築が鍵-
主席研究員 佐次清隆之
超高齢化社会が目前に迫る中、日本各地でラストワンマイルの移動をめぐって、様々なモビリティの検討が行われている。ここでは、地域に存在する既存の交通資源の活用や新たなモビリティの導入など様々な角度からラストワンマイル問題に対応しようとしている、豊岡市の取り組みを通じてラストワンマイルにおけるモビリティサービスのあり方について考えてみたい。
ドアツードアに近い地域主体交通で利用者数が大幅に増加
兵庫県北部に位置する豊岡市は人口8万1,172人(2019年7月末時点)、市域内に多くの中山間地を抱え、公共交通空白地対応が10数年来の課題となっている。
同市は、2007年9月に路線バスの市内26路線中11路線休止の発表を契機に、2008年に市町村運営有償運送・交通空白輸送の市営バス「イナカー」を定時定路線運行で導入。2011年には最低需要基準(1人/便未満だと路線廃止)に達しない「イナカー」の路線では、「イナカー」にかえて地域組織が運行を担う「チクタク」が導入された。
「チクタク」も決まったルートを運行するが、自宅近くや病院、商業施設など利用目的に近い場所に停留所を設置して、可能な限りドアツードアに近い送迎を行った。この結果、対象地区のひとつである資母地区で、「イナカー」運行時と「チクタク」に変わってからの利用者数と市負担額を比較すると、月平均利用者数は「イナカー」では9.6人だったのが「チクタク」では26.5人と3倍近くに増加、一方で市負担額は年額で「イナカー」では245万円だったのが「チクタク」は81.3万円と1/3に縮減するといった効果が得られたという。
地域ニーズにあったきめ細かい移動サービスを提供することで、利用者の増加と市交通負担額の圧縮の両方が実現できた好例である。
地域への集客イベントも活用して新たなモビリティサービスを検討
さらに現在、同市は地域に眠っている遊休車両や運転を担う人をゼロベースで発掘して新たな交通モードを作成しようと試みている。具体的には、繁忙期以外は空いている車両を地域の足として活用し、旅館や民宿のスタッフに時給の地域ドライバーとして活躍をお願いし自家用有償旅客運送ができないかなどを検討している。またその一方、城崎地区ではアプリを活用した相乗りタクシーの実証実験も実施した。
また、地域振興の一環として進めている「国際演劇都市」の取り組みと関連づけ、2019年9月に開催された第0回豊岡演劇祭では、トヨタ自動車の協力のもと、市内4カ所で「コムス」を無料で貸し出し、実証実験を行った。城崎地区など細くて狭い道路が多いところでは「コムス」のようなパーソナルな移動手段が適しているのではないかとの想定である。同市の「第0回豊岡演劇祭開催報告」によると、制限時間は設けなかったが全体の約5割が20分未満の利用で、「コムス」は「チョイ乗り」ニーズにマッチしており、大きな可能性があるとしている。
全国に遍在するラストワンマイルの解決に向けて
このように地域起点でラストワンマイルのモビリティの可能性を多角的に検討しているのは、豊岡市のような地方小都市だけではない。郊外化の進展により、地方大都市あるいは横浜市のような大都市であっても、市域内に高齢者などには厳しい移動環境の地区を抱えている。実際、人口規模にかかわらず、ラストワンマイル対応の多様なモビリティの実証実験は日本各地で活発に実施されている。ラストワンマイル対応は、特に超高齢社会が間近に迫る日本では生活型MaaSを検討する基礎的要件となっているのである。
MaaSというと経路検索・予約・決済の一括化などシステム面が注目される傾向が強い。
しかしながら、地方MaaSを定着させるためには、地域生活者目線の移動ニーズの汲み上げが、まず着眼点としてスタートすべきであろう。多様な住民ニーズに対し、どこまで合理的な移動方法をきめ細かく設計できるかが問われている。
<参考>
豊岡市のイナカー
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