地方再生とモビリティ課題

過疎化の進む地方の移動問題

地方の過疎化と高齢化が急速に進んでいる。その活性化策の一つとして移動問題に焦点を当てて、民間事業者によるオンデマンド型小型バスの活用や自家用有償運送の規制緩和によるタクシーの活用、という動きが出てきている。

しかしながら、高齢化が進み人口そのものが減少している地方の現状では、こうした民間事業にも限界があり、近い将来、地域住民主体の活動を期待するしかないケースが、多く出現してくるものと思われる。

その一つとして、地域主体によるライドシェアの活用の可能性がある。地域活性化の基本は、絆や参加といった社会関係資本を充実させることであり、人と人との交流を移動の相互扶助によって高めよう、というアプローチである。

既に、地域の「経済活性化」という観点から、相互扶助的な地域通貨やポイント制を導入している地域は多数存在する。「移動活性化」もこの延長線上の対策として十分可能性のある議論に思えるが、これが本当に解決策につながるためにはいくつか検討すべきハードルがありそうだ。

地方版ライドシェアのアイデア

地方版ライドシェアは、採算性に乏しく人手の少なさを回避する手段として、地域の移動弱者に対し近隣の住民が支援するという相互扶助の仕組みである。免許を持ち自家用車を保有している人たちが事前登録をし、移動サービスが必要な人に目的地まで届けるサービスを提供する。

この互助的な活動を活発化させるために、感謝ポイント的なものをサービス供給者に与えることが議論されている。これは、人の好意や善意をポイントとして価値換算し、善行の見える化とお金に代る価値を積極的に認めていこう、という考えが背景にある。

地域ライドシェアの課題

地域活性化のためには、交流・信頼・参加をポイントによって刺激することで良い循環が生まれる、という一見すると上手くいきそうな妙案にみえる対策だが、本当に定着するモデルとなるためには、乗り越えるべき幾つかの課題がある。

まず第一に、「人と交流を深めることが人をより幸福にする」という基本的な考え方がもっと一般的に普及していく必要がある。

実は、日本人の幸福度は決して高くない。国連調査(*1)によれば日本の幸福度は世界全体で58位、上位グループの北欧や西欧諸国が6、7点台であるのに対し日本は5点台と大きなギャップがでている。国内の独自調査(*2)でも、10点満点で5.89点(全国平均)となり、国連調査と似たような結果が出ている。
そして、興味深いことに、この数値は都市でも地方でも同じような値であり、地域性がない。
(*1) 国際連合の調査(World Happiness Report 2019)
(*2) 内閣府調査「満足度・生活の質に関する調査 令和元年5月」

調査によれば、幸福度と相関するのは信頼できる人の数やボランティア活動の有無となっている。日本人の低い幸福度から判断すると、我々は自分の回りに信頼する人が少なく、“迷惑をかけたくない”という思いが強いがため、相互に依頼し合う人間関係づくりがあまり上手ではなさそうだ。

移動で交流活動を進展させるためには、積極的に人と交わり相互依存関係をつくることが自分たちを幸せにする、という大きな価値を見いだせるかどうか、持ちつ持たれつの関係を強め本当に皆で参加しようという自主性を高めることができるかどうか、が鍵となる。

定着化の別の課題として、新たな指標づくりを考える必要がある。移動弱者は、通常高齢者や生活にゆとりが余りない人達だと想定すると、交換するサービスが余りないように思える。そのため、定着化にあたりこうした人たちには公的機関などからのポイントの無料給付という形を考えるのが一般的だろう。そうした場合、公的機関は、高齢者の健康度指数や移動困難者の生活改善度指数など、新たな価値を指標化させ、その総和が単純な貨幣価値を上回るといったことで、財政支援サービスを正当化させる必要がある。

さらに継続化の課題として、ポイントが循環し流通量を増やすためには、地域の活性化という理念に留まらず、ポイントによってお金では得られないもの、例えば、「経験」「感動」といったものを獲得できる仕組みをつくる必要がある。人には合理的判断をする部分と感情的判断をする部分の両側面があり、両方を適切に刺激することが求められるのではないか。

「善意の循環」という理想論ではなく、お金では買えない価値を創出して付与していく工夫が必要となる。

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