都市別モビリティ市場とビジネスの将来像・課題
弊社取締役白木と主席研究員佐次清の両名が、日本・東京商工会議所様のご依頼を受けて、「都市別モビリティ市場とビジネスの将来像・課題」というテーマで講演致しました。その内容をご紹介致します。
講演内容のサマライズは以下の通りです。
1.日本のクルマ社会の実態と課題
- 今後の日本は、人口減少に加え、75才以上の人口が急増し、年代構成比も劇的に変化へ。2022年頃からは運転中止者が急増する可能性。
- 車が運転できなくなると「困る」度合いが高い人は非常に多く、自家用車の価値は「生活の基盤」であると共に、QOL向上にとり重要な位置づけとの認識(詳細版PDF参照)。
- 公共交通の利便性格差は拡大が続き、大半の県で今後懸念のある地域を抱えると共に、大都市部でも団塊世代の後期高齢者増加で課題を抱える。
- 2030年以降までの視点に立てば、身近な移動さえ困難になる人が急増し、先に行くほど構造的課題が強まる見込み。
- 「海外で浸透する配車サービス」、「タクシーのサービス改善」、「自動運転のバスやタクシー」「住民互助型のライドシェアサービス」への潜在ニーズの違いを紹介。
2.IOTと次世代モビリティ社会
- IOTの進展は新たな産業革命のプラットフォームとなり、経済パラダイムを転換するインパクトがあり、シェアリングエコノミーによる持続可能な分散・協働型社会へ向かうという見方(文明批評家ジェレミー・リフキン氏)を概念図にして紹介。
- 「シェアリングエコノミーの本質は、サービスを通じた人と人の交流の豊かさがあること」という見方も紹介の上で、日本は高齢化の課題先行国であり、かつ各地域社会の発展性やコミュニティの結束力にも課題が多い中、IOT活用は地域活性化の有効な手段となる。
- 自動運転車には期待も不安も大きいが、低速でも十分な自動運転車として身近な移動さえも困難になった人向けの未来型モビリティなど、生活者ニーズを傾聴・洞察すればビジネス機会は大。
- 以上の消費者の実態やニーズへの意識から、対策の方向性をまとめた。異なる交通機関の接続(マルチモーダル)の利便性を高めながら、ラストワンマイルをオンデマンドの交通手段で補う方策は全国的に求められるが、住民互助型の有人ライドシェアや、エリアや速度限定の無人運転バス・タクシーの導入やそのための環境整備が必要とした。
3.地域移動に対する取り組み事例
- 中山間地域の取り組みとして、長野県中川村のNPOによる公共交通空白地の有償運送を紹介。
- 大都市圏内の取り組みとして、神奈川県秦野市の移動困難者向けの複合的取組みを紹介。
- アプリを活用した取組みとして、京都府京丹後市のウーバーアプリを活用した公共交通空白地有償輸送を紹介。
- タクシー事業者の新たな取り組みとして、時間制ドライバー、定額タクシー、「緑」と「白」のハイブリッドの事例を紹介。
- 富山県南砺市の自動運転の実証実験や兵庫県豊岡市の貨客混載の事例を紹介。
4.今後に向けて
(地域経済における商工会議所(様)の重要なポジションを踏まえ、今後検討いただきたい点を提言)
- 日本では民間が公共交通を担う部分が大きく、機能不全が発生しやすい点が根本としてあるが、官民協力で地域住民の「生活の基盤を守りクオリティオブライフを高める上で不可欠なモビリティ」の課題に対応する必要があり、様々な業種の連携を促し、発言力の発揮を期待。
- 1つの解決策として、住民互助型のライドシェア(柔軟な自家用有償旅客運送)は現実的に有効度が高い手段と考えられ、導入に向けた環境整備や全体設計のコーディネートへの寄与を期待。住民互助型のライドシェアをきっかけに「共助」の力を高め、地域の防災や見守りをはじめとした地域コミュニティ再生の糸口にする視点も推奨。
- モビリティ確保の問題は、その地域での居住の持続可能性や地域経済の発展性にも大きく影響するため、行政への提言機能も重要になる。
- 欧州などと比べ「交通の権利」を公的責任で守るという面が弱く、公共交通を民間が担い、採算性を基準に切り捨てられる部分が多くなりやすく、補うことが必要。例えば、諸外国と比べ過重な消費者負担となっている自動車関連税収の一部を、運転できなくなった人を救う財源に使う提言などを期待。
- 新たな公益性の高いモビリティの仕組みの導入・運用を推進するために必要となる規制緩和や、インフラを含む様々な環境の整備に関して、必要な官の役割についても積極的な提言を期待。
○御意見・お問合せ先
report-ml@gendai.co.jp
株式会社 現代文化研究所
取締役 白木節生(しらきせつお)
主席研究員 佐次清隆之(さじきよたかゆき)