カーボンニュートラルに向けたディーラーのエコカー推奨活動の効果について~統計と調査データによるシミュレーション~/自販連「自動車販売」12月号

 弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の12月号に寄稿したレポートをご紹介いたします。

日本政府が宣言した2050年のカーボンニュートラル目標の達成に向け、30年度には温室効果ガスを46%削減(13年度比)を目標としており、うち運輸部門は35%削減(同)が目標とされる。

自動車輸送分野は、日本全体のCO2排出量の15.5%(20年度)を占め、うち自家用乗用車は8.1%(同)を占めており、一般ユーザーとの接点を担うディーラーの脱炭素に向けた貢献活動は非常に重要な意義を持つといえる。

そこで今回は、自家用乗用車を対象に保有統計(一般財団法人自動車検査登録情報協会:自検協)と、弊社の乗用車保有ユーザーへのWeb調査(毎年1回実施、2千サンプル強)の結果を活用しながら、ディーラーの貢献に関するポテンシャルや道筋について、私見を述べていきたい。

1.自動車の温室効果ガス排出は減少トレンド

国土交通省のデータによると、自家用乗用車からのCO2排出量は、燃費の向上などで減少トレンドが続いており、20年度はコロナ禍の影響で走行距離が急減したことも加わり、13年度比で19.2%もの減少となった。(図表1)

政府の運輸部門の30年度の35%削減目標も、21年度以降の社会情勢と削減努力次第であるが、十分に達成可能なものではないかと考える。

2.エコカー普及で実燃費が向上

国土交通省データによると、日本の自家用乗用車からのCO2排出量は20年度で8440万トンとされる。一方で、保有台数統計からは自家用乗用車は、軽自動車の統計を合わせると約6166万台とみられる。

保有1台当たりのCO2排出量は年間約1.37トンとなるが、ガソリン1リッター当りのCO2排出量は2.32kg(環境省資料)とされており、ガソリン消費量は月間約49リッター(年間約588L)と推測される。

そのガソリン消費量は、走行距離と実燃費から算出される。

実燃費は、弊社ユーザー調査の初度登録年式別の実燃費の回答から保有者の全体平均で13.8km/L程度となる。

それを是とすると、平均走行距離は月間約680km程度となる。(図表2)

初度登録年式別の実燃費は、年式が新しいほど平均燃費は高くなる。

実燃費の変化に関しては、日本のエコカーの主流となっているハイブリッド車(HV)の普及の影響を確認しておくことが必要である。
保有台数統計では、乗用車(登録車のみ)に占めるHVの比率は、22年3月末時点で27%となっている。

初度登録年が2008年式以前では、保有台数に占めるHV比率は4%以下にとどまるが、リーマンショックとその後のエコカー補助金・減税政策で一気に比率が高まり、09~11年式平均で18.6%と最初の普及段階となった。(図表3)

その後、東日本大震災後のエコカー普及促進政策で、12年式以降では比率が3割を超える基調となり、第2の普及加速期となった。12年式から15年式には平均34.6%となり、16年式~19年式は39~40%で高水準を維持した。

20年式では一旦38%となったが、21年式は44%、22年式(3月末まで)は49%にまで達した。(図表3)。

そうしたHVや低燃費エンジン車の比率上昇の影響で、実燃費は08年以前登録の保有車が平均10.4km/Lに対して、20年以降の保有車は平均16.0km/Lと大きな格差が生まれている。またHV保有者の平均実燃費は18.6km/Lとなっている。(図表4)

3.エコカーへの買い替え推奨の効果は大

政府の30年度の運輸部門の温室効果ガス35%削減(13年度比)目標に向け、20年時点での19%強の削減率から、今後どう削減率を積み増していけるかが注目される。そこで今後の乗用車走行からの温室効果ガス削減に向け、エコカーへの買い替え推奨による効果についてシミュレーションを試みる。

初度登録年別の保有台数の統計(登録車)では、初度登録後11年以上経った車が約35%を占める。また14年以上経過した車も約22%を占めている。(図表4)

それらの登録年式が古い車の実燃費は悪く、走行距離当たりのCO2排出量は多くなっているため、それら年式の古い車から最新のエコカーに買い替えしてもらえれば、同じ使い方でもCO2の排出量は大きく削減される。

仮に初度登録後11年以上経過した車が、全てHVに代替した場合、現行のHVの平均実燃費の調査データを適用すると、日本の乗用車保有全体の平均燃費は高まり、CO2排出量は約16%も削減されることになる。(図表4)

登録後11年以上経過車の全てがHVに代替されなくても、7年式以上の買替適齢期の車から最新のエコカーへの代替は大量に発生し、今後はEVの普及も見込まれるため、同程度かそれ以上のCO2排出量削減も十分可能と思われる。

コロナ禍による走行距離の大幅な減少については、今後反動も考えられるが、エコカーへの買い替え推奨をディーラー業界が一丸となって注力していけば、政府目標の達成も近づいてくると考える。

4.ディーラーのエコカー推奨強化と公的支援策で政府目標達成も視野に

自動車からのCO2排出量は走行距離と実燃費がファクターとなる。

弊社調査結果でも、20年はコロナ禍の影響で各年齢層とも走行距離が大きく減少している。今後は、ある程度は走行距離が増えてくる可能性はある。しかしながら、テレワークによる通勤利用距離の低下や、ガソリン代高騰による利用距離の削減等に加え、高齢になるほど走行距離が減少する傾向があり、中長期的に影響してくると想定される。(図表5)

また政府として脱炭素への協力の依頼を強めていくことが見込まれ、自動車走行による温室効果ガス排出量削減に協力する動きも含め、台当たり走行距離は下向きのトレンドになると見込まれる。

また実燃費の方に関しては、エコカーへの買い替え推奨で大きな貢献が期待される一方、特に買い替えが望まれる古い年式のユーザーほど、経済的余裕の面から買い替えに制約がある層が多いという課題もある。また車の必需性が高く、世帯保有台数も多い地方部ほど、走行距離が多い反面で、買い替えサイクルが長く、エコカー購入への許容負担額が低いという課題もみられる。(図表5・6)

こうしたエコカーへの買い替えの有効度が高いユーザーを含め、幅広いユーザーの買い替えを促進できるような政策的な支援策も求められる。

そうした公的な支援と共に、ディーラー業界としてエコカー推奨に注力し貢献努力を続けていけば、実現が難しい印象のある政府の温室効果ガス削減の30年度目標も、乗用車の走行分野に関しては、達成の可能性は十分にあると考える。(図表7)

それがそのままディーラーの収益にもつながり、今後の経営強化策の中でも重要な柱となるだろう。

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カーボンニュートラルに向けたディーラーのエコカー推奨活動の効果について~統計と調査データによるシミュレーション~
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