【Mobility Forecast】モビリティ含め60社、令和3年度サポイン事業
に採択~戦略的基盤技術高度化支援事業への期待と課題 ~

ポイント

  • 国の宝、とも言われる中小企業だが研究開発力は弱く、新事業に取り組む経営リスクは高い。そこで支援策として国が取り組む施策の一つがサポイン(サポートインダストリー)事業。
  • サポインの補助金は1億円弱と比較的大型。産学官連携の共同体を組むのが特徴で、外部リソースを取り込み技術力の底上げを図る仕組み。
  • 平成18年度からの16年度分で約7,600者が申請、採択事業は2,200余。令和3年度は60者が採択、モビリティ関連もEV、通信、自動運転関連等、周辺技術や支援技術で十数者が採択。
  • 資金やフレームに加え、経営者の取組み姿勢等もイノベーションの成否に関わる。適切な効果測定も重要。

1)中小企業を支援するサポイン事業

中小企業は国の宝と言われながら、そのR&D力は概ね弱く、下請けの立場を脱して先進的な自社製品の開発を行うにしても資本力が脆弱なため、研究開発や事業化のリスクは大きい。こうした事情を背景に、中小企業支援策として国(経済産業省・中小企業庁)が平成18年度から取り組んでいるのが、サポイン事業だ。


出所:中小企業サポインマッチナビ

2)「サポイン事業」とは

サポインとはサポーティングインダストリーの略。中小企業は完成品の製造や組立てを行う企業に対し、主に部品や資材を提供する立場に立つことが多いことから、サポーティングインダストリーと呼ばれている。そしてサポイン事業はその正式名称を「戦略的基盤技術高度化支援事業」といい、2年から3年の事業期間の間に最大1億円弱(3年間合計9,750万円以内)の補助金が支給される。

【サポイン事業の概要】 出所:中小企業庁ミラサポplus

3)サポイン事業のフレームと令和3年度の状況

特徴的なのは、中小企業1社単体では補助金の申請ができないこと。中小企業の技術開発力を補い支援し相乗効果を上げるため、産学官連携の共同体を組成し研究開発補助金の申請をする形態となっている。この6月には令和3年度の採択企業、60件の事業が採択された。


出所:中小企業庁ミラサポplus

【令和3年度採択事業一覧】は以下からダウンロードいただけます。
出所:中小企業庁 令和3年度戦略的基盤技術高度化支援事業 採択一覧

4)サポイン事業の中のモビリティ技術関連案件

この60件からモビリティ関連の事業を挙げてみると――
【EV関連】

  • EV化時代に増⼤する磁気センサの需要を⾒据え検査能⼒を3倍に向上させた磁気センサ装置の開発
    (主たる中小企業:東栄科学産業/宮城県)
  • 次世代蓄電デバイスの技術⾰新を⽀えるリチウムイオンキャパシタ⽤リード端⼦溶接技術の開発
    (同:湖北工業株式会社/滋賀県)
  • 電気⾃動⾞向けモータ⽤巻線の⾼品質・短納期製造を可能にする異形引抜き⼯具製造技術の開発(同:泉ダイス株式会社/山口県)

【通信関連】

  • ⾃動⾞向け⾼速通信⽤ワイヤハーネスの検査装置の開発(同:株式会社シーデックス/東京都)

【自動運転】

  • ⾃動⾞の⾼度⾃動運転化に寄与する新規フレキシブル形状ミリ波吸収体の開発(同:廣瀬製紙株式会社/高知県)

以上のほか、シート材加工技術やシールドフィルム、水素関連など、選択基準の在り方にもよるが、十数件の事業が採択、60件中の2割程度を自動車関連が占めている。

出所:中小企業庁 令和3年度戦略的基盤技術高度化支援事業 採択一覧

5)過去の好事例

過去の事例は中小企業庁サポインマッチナビ等でも見ることができる。以下(左)は平成29年度から令和元年度実施の採択事例、福井県の大喜株式会社を主たる中小企業者とした「ジャカード織りとカラミ織りを融合させ、世界初の独自技術で織り込んだデザイン性と機能性に優れた発光織物」。自動運転と内装という一見距離のある分野を結び付けた好事例だ。また平成28年度分までは事例集としても公表されている。

【サポインマッチナビ掲載の好事例】 

出所:中小企業庁サポインマッチナビ

【公表されているサポイン事例集】 


出所:中小企業庁

6)サポイン事業への期待と今後の課題

我が国のGDPは1990年代から米中や欧州の伸びに比べ、500兆円前後で横ばいのまま。その理由を中小企業の生産性の低さに見る向きもあるが、サポイン事業のような取組みは新事業の創出や競争力強化に資する取組みとして期待される。

課題もある。サポイン事業はこれまでの申請数約7,600者に対し、採択者は2,200余と補助金獲得のハードルは低くない。中小企業庁サポインマッチナビでも「狭き門を通った、選び抜かれた技術、事業」と謳っている我が国の中小企業約360万者に比べれば微々たるものである。

またイノベーションを成功させるには、技術や外部連携のほかに市場性や用途があり、組織やプロセスがうまく機能していることも重要だ。そして何よりも社長、経営者の思い、リーダーシップ、アントレプレナーシップ、経営理念といったものが大きく影響してくる。

経済産業省・中小企業庁では平成29年度にサポイン事業の効果測定調査を行い、サポイン事業の後、6年~8年で売上で約20億円、総利益で約3億円のプラス効果があると報告している。調査対象数が多くなかったため、その他の効果は統計的には明瞭ではなかったが、こうした財務面での検証に加え、真にイノベーションを推進し、我が国GDPを高めていくような施策と効果検証の取組みを面的な広がりを持たせつつ、進めていく必要がある。


出所:日本経済新聞

【参考】P.2掲載のサポイン事業のフレームを詳しく図解すると、以下のようなものになる。 

出所:経済産業省

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