市区町村ごとに登録(普通・小型)乗用車と軽乗用車の保有台数を中長期予測 ~コロナ禍を踏まえた2025年、30年、35年の乗用車保有台数予測の更新~

 弊社上席主任研究員、黒岩祥太が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の6月号 に調査レポートを寄稿しました。関連した考察をご紹介させていただきます。

市区町村別の登録と軽乗用車保有台数予測の概要

 トヨタ自動車グループのシンクタンクである株式会社 現代文化研究所(GENDAI Mobility Research、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鈴木知)は株式会社 日本統計センター(Nippon Statistics Center、本社:福岡県北九州市、代表取締役社長:加来伸一郎)とともに、昨年度より国内の「市区町村別乗用車保有予測」を実施している。
 本年度は2020年3月末の市区町村別乗用車保有台数実績と2020年12月末までの全国乗用車保有台数実績に基づき、今後の予測値を更新した。加えてこれまでは登録(普通・小型)乗用車と軽乗用車の合算値で予測していた数値を、登録と軽に分けて予測した。

全国の含軽乗用車保有台数の予測結果

 まず予測の結果、分析対象となった1733市区町村(*なお本予測では以下、各種データの取得が困難な福島県双葉郡・相馬郡の一部市区町村を含まない)合計で、20年には含軽乗用車保有台数で6,174万台であるのに対して25年には5,921万台(20年比-4%)、30年には5,697万台(20年比-8%)、35年には5,493万台(20年比-11%)と予測された(図表1)。これは昨年度予測に対して25年と30年で3%弱、35年で約2%強であった。その理由としてはコロナ禍で移動手段のパーソナル化が進展したことなどから、(新車販売台数は足元では減少しているものの保有の長期化がすすみ)保有自体は増加したことが挙げられる。

 なお、人口動態や社会経済の今後の動向や今後のコロナ禍の鎮静化などを考えれば、中長期的には前回値が妥当ではないかとも考えられるが、保有には過去からの累積効果が働くこと、今後も数年は保有の構造変化が遅れるという見通しなどから、今回の数値を採用した。そういった意味では、前回値をリスクシナリオとお考えいただきたい。
 次に、今回の結果について20年から35年にかけての保有台数の減少率ごとに市区町村数を集計した結果は以下である(図表2)。全体で1,733市区町村のうち、今後約15年で20%より保有台数が減少してしまうと予測される市区町村は901(52.0%)であり、過半数を越える結果となった。

 では何故20年から35年にかけての全国の乗用車保有台数の減少率が11%と予測されるのに、過半数の市区町村で減少率が20%を上まわってしまうのか。この理由は市区町村の構成が、少数の人口密度が高い都市部と、それ以外の多数の地方部から成り立っていること、そして多数の地方部でこそ、今後の乗用車保有台数の減少率が高まることに基づく。

全国の登録と軽乗用車別保有台数の予測結果

 車種別では、登録(小型・普通)乗用車保有台数が20年の3,922万台に対して25年で3,696万台(20年比-6%)、30年で3,581万台(20年比-9%)、35年で3,478万台(20年比-11%)、軽乗用車保有台数が20年の2,253万台に対して25年で2,226万台(20年比-1%)、30年で2,116万台(20年比-6%)、35年で2,015万台(20年比-11%)と予測された(図表1)。
 どちらも減少傾向ながら、登録乗用車と軽乗用車で大きく減少する時期にタイムラグがあるのは、登録乗用車の場合、その乗り手になる可能性の高い男性免許保有者が2010年頃より既に減少傾向にあるのに対して、軽乗用車の乗り手になる可能性の高い女性免許保有者数は2020年時点でも若干ながら増加していることに起因する(図表3)。

 女性人口そのものは減少しているにもかかわらず女性免許保有者数が増加している原因は、若年女性の方が高齢女性と比較して相対的に免許保有率が高いためであり、背景には女性の社会進出が考えられる。「若者のクルマ離れ」といった議論からすると直感に反するかもしれないが、要するに同じ年代や家族構成、社会経済環境の女性であれば、以前よりも免許保有率の上昇から乗用車を保有している可能性はより高まっている。そしてその時の保有車は多くの場合、軽乗用車であると想定される。
 加えて軽乗用車の需要という点では、(こちらも直観に反するかもしれないが)高齢者の存在も重要である。例えば地域の他の要因を多変量解析で調整したとしても、高齢者の割合が高い市区町村の方が一人あたりの軽乗用車保有率が上昇する傾向があり、この理由は、本人が運転をする/しないに係わらず、高齢者の移動の需要に軽乗用車は欠かせないということだとみなすことが出来る。
 ただし人口減自体は登録乗用車・軽乗用車を問わず保有台数に負の影響を及ぼす要因になると考えられ、35年には両車種とも同水準で減少すると考えられる。

地域別の含軽乗用車保有台数の予測結果

 最後に、地域別の含軽乗用車保有台数の推移と予測は次のとおりである(図4)。
この結果から、20年から35年にかけての乗用車保有台数の減少幅が最も小さいのは関東の1,694万台から1,569万台(20年比-7%)であり、以下、減少幅が小さい順に中部、近畿、九州・沖縄、中国・四国、そして最も減少幅が大きいのが北海道・東北の806万台から659万台(20年比-18%)である。やはり東京、大阪、名古屋といった大都市が含まれる地域は相対的に減少幅が少ない傾向となっている。

 なお、以前(2020年12月22日)のHPでの記載との相違は、予測値が異なることに加え、地域の定義をより一般的なものに変えたため、静岡県が関東から中部に移っており、その分の保有台数変化(具体的には関東の保有台数が減少し、中部の保有台数が増加)が生じている。この点、ご留意いただきたい。加えて業界団体や企業によって、地域区分の定義が必ずしも統一されていないため、どの都道府県がどの地域に含まれているのかを明瞭化する必要があると考えた。したがってこの点も付記させていただいた。

まとめ

 地域の乗用車保有台数の減少は乗用車関連ビジネスのみならず、ロードサイドのショッピングセンターやファミリーレストランなどを含め、多様な業界やまちづくりそのものにも影響を及ぼすと考えられる。
 今後、地域の現状のみならず、将来の市場環境を与件として踏まえたビジネスの開発と展開が求められると考える。

予測の考え方

 原則として各市区町村の含軽/登録/軽乗用車保有台数は、当該市区町村の人口に一人あたりの含軽/登録/軽乗用車保有確率を乗じたものとして表現することが出来る。そして一人あたりの保有確率は、市区町村の地理的・人口的・社会経済的要因によって説明されるものと考えることが出来る。
 既存データにおける各市区町村の乗用車保有台数と人口から、市区町村ごとに一人あたりの含軽乗用車/登録乗用車/軽乗用車保有確率をそれぞれ導出。国勢調査などに基づく2005年~15年にかけての各市区町村に関する時系列のパネルデータを用い、上記保有確率を目的変数、人口構成・社会・経済環境などを説明変数としたロジスティック回帰分析にて定量モデル化
 人口構成・社会・経済環境が類似する市区町村は保有確率も類似してくるという仮定と2035年にかけての5年ごとの人口・社会・経済環境の変化予測、それに2020年での実際の保有確率と2021年にかけての保有傾向に基づき、各市区町村の一人あたりの含軽/登録/軽乗用車保有確率の予測値を推計。なおこれらの3定量モデルのうち、当てはまりのよい含軽乗用車及び軽乗用車の定量モデルを採用し、その予測値の差分から登録乗用車保有確率も導出。
 この推計値に国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口の推計値を乗じることで、市区町村別の保有台数予測値(理論値)を導出。最後に2020年の市区町村別保有データで市区町村ごとに理論値と実績値の誤差を導出し、予測値(理論値)に反映させること、説明のつかない異常値が出てしまう市区町村を補正することで予測値を構築。

予測の限界

 乗用車の保有には人口構成や人口密度など、見通しが比較的容易な人口動態的要因が強く関連し、イレギュラーな社会変動や景況などは新車需要とは異なり、それほど強い影響を及ぼさないと経験的には考えられる。したがって現在の予測値はあくまで入手できる既存の人口構成・社会・経済データとその将来シナリオの範囲内での推計とはなるが、ベースラインの把握材料としては一定の確度を持つと考える。
 一方でシェアリングサービスなど移動ビジネスの革新的な展開によって更に乗用車の保有が低下する可能性、後期高齢者にも扱いやすい安全な自動運転システムの登場と法整備などによって保有が維持される可能性、更には使われなくなった保有車の廃車処理などが滞ることによる、見かけ上の保有維持・上昇の可能性などが想定しきれていない要因と考えられる。

お問合せ先

 なお、本稿で紹介させていただいた市区町村別保有台数データは販売させていただいております。ご関心をお持ちの方は、
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 担当: 株式会社 現代文化研究所 黒岩 祥太 (くろいわ しょうた)