将来の店舗統廃合検討に向けた調査データの分析

 弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の12月号に寄稿した 調査レポートをご紹介いたします。

今後国内の自動車市場は、人口減少や後期高齢者の免許返納などから、中長期的な保有の減少が見込まれる。
そうした中、販売会社間の競争も激しくなると見込まれ、市場ニーズをよく理解した上での店舗ネットワーク再編が、経営効率や市場シェアの面からも重要になると見込まれる。
そこで、弊社現代文化研究所が直近で実施した全国の車保有者へのインターネットモニター調査結果(10月実施、回答者2228名)を基に、今後の店舗ネットワーク最適化に向けた検討材料を提供したい。

1.現保有車購入先までの物理的距離は地域差が大きく、年齢による差も

 まず「現保有車の購入先店舗」までの物理的な距離(自宅又は職場から)をみる。その距離の全国の中央値は4.3kmだが、バラツキが大きいことが特徴で、平均値は高めに出ている。
 距離は地域差が著しく、3大都市圏中心部では2km以内が43%を占め、中央値は2.4km、3大都市圏の近郊・郊外では2.9kmと短い。
 一方、人口10万人未満都市では中央値が4.6km、町村・郡部では中央値が8.6km(10km以上の比率は45%を占める)と長い。
 ユーザーの年齢別では、高齢者で近距離が多い傾向がみられる点は、今後留意が必要である(図表1)。

2.整備入庫先は、車購入先よりも距離の近さを意識

 「最もよく利用する整備入庫先」までの物理的距離は、全国の中央値は3.7kmであり、現保有車の購入先と比べ14%ほど短く、やはり整備での利用は距離の利便性がある程度意識されているとみられる(図表2)。
 どの地域でも現保有車の購入先よりも中央値が短くなっており、地方部でも10km超との回答は少なくなっている。また高齢者は短い傾向がみられる。

3.店舗までのドライブタイムは、物理的距離よりも地域差が少ない

 次に、現保有車の購入先までの距離(自宅又は職場から)を車でのドライブタイムで見た場合、全国の中央値は15.8分となる。3大都市圏中心部が13.6分に対し、町村・郡部が19.7分と差はあるものの、大都市部ほど渋滞で平均車速が遅いため、ドライブタイムでの差は物理的距離の差よりもかなり少ない(図表3)。
 従って、今後店舗統廃合を検討する上では、ドライブタイムを基準にした方が検討はしやすいと思われる。

4.店舗統廃合時に許容されるドライブタイムは顧客毎のバラツキが大きく、「30分以内」が最大の限界値に

 店舗統廃合時の「車の購入先」での利用許容距離への意識では、全国の中央値はドライブタイムで18.2分と、現状の購入先より2.4分長くなった。但し、許容度は顧客毎にバラツキが大きい。
 流出リスクは当然距離が近いほど抑制されるが、今回は許容限界を重視して検討していきたい。
 車で「20分以内」と「30分以内」の回答が現保有車購入先との距離より多く、限界値との意識が強い。30分超との回答は現状の店舗での比率以下の15%にとどまる。
 「整備入庫先」の利用許容距離の全国中央値は17.5分で、「車の購入先」よりやや短い。30分超の回答は13%とさらに少ない(図表3)。

 従って、店舗統廃合にあたっては、ドライブタイムの20分の壁、30分の壁を意識する必要があるだろう。

5.現保有車購入先との距離に応じ、許容ドライブタイムが異なる

 店舗統廃合時の車の購入先での利用許容距離(ドライブタイム)について、許容を超えて流出が予想される人の比率を除外した残存率の表を示す。
 全国合計では、ドライブタイムで10分を超えた所では81%が許容距離範囲内として残存するが(逆に約2割で流出リスクが上昇)、15分超の所で残存層は62%(約4割が流出リスク)、20分超の所で43%(6割弱が流出リスク)となり、30分超の所で15%と急低下する。
 なお現保有車購入先がドライブタイム10分までの人は15分超で、15分までの人は20分超で、流出リスクが高くなることが想定される。
 一方、現保有車購入先が16~30分の人では30分超になると流出リスクが急拡大する(図表4)。
 そのように顧客毎の現保有車購入先との距離によって許容距離が異なってくることも視野に入れ検討する必要がある。
 またこうした距離に対する顧客心理データに基づく流出度合のシミュレーションは、立地検討時の基礎データとして活用できる。

6.点検整備の購入先利用度では、ドライブタイムよりも販売店満足度で大きな差

 店舗統廃合にあたっては、メンテナンス利用での関係維持により、流出を防止することが経営上非常に重要となる。
 現保有車購入先の点検整備での利用度に関する現状の実態データを見ると、利用度の違いへの影響要因としては、店舗との距離以上に、販売店への満足度が大きな影響を与えている。
 購入先店舗へのドライブタイムが20分以内の場合は利用減少の影響は見られない。しかし20分超では減少が見られ、30分超の距離になると、3割弱の人が車購入後当初から他店を利用することで、利用率が低下しているようである。
 一方、ドライブタイム以上に、購入先への満足度の違いは、点検整備での購入先利用率に大きな差を生んでいる。
 「点検整備を全てお任せする」人の比率は、購入先に「非常に満足」な人は81%に対し、「どちらともいえない」人は52%、「やや不満以下」の人は17%まで下がる。ドライブタイム別での比率の違いよりも顕著な差が確認できる(図表5)。

7.店舗統廃合時は、距離の不便さをCSの高さでカバーできる可能性は高い

 従って店舗までのドライブタイムが顧客の許容範囲を超えなければ、距離的に多少不便になったとしても、特に高いCS評価を得ることでカバーは可能と考えられる。
 但し、移転前の十分な告知案内、顧客毎の意向確認や納得を得る説明、担当スタッフの配置・引継ぎ、移転後の親身なフォロー対応など、流出防止のために通常のCS活動以上に、きめ細かい配慮が求められる。
 また点検整備での利用率は、新車購入後の経過年数やメンテナンスパックへの加入有無による違いも大きい。
 「点検整備を全てお任せする」人の比率は、新車購入後3年以内の人が70%に対し10年以上では51%、メンテナンスパック加入者が77%に対し非加入者は50%と大きな差がある。しかし、それらにおける差は、店舗のCS評価が原因となっている面も強く、やはりCSの向上が対策の基軸として重要である(図表6)。

8.店舗網最適化による経営効率化には、CSレベルのアップと流出防止への科学的な立地分析が重要に

 今後中長期的には、店舗統廃合によるネットワーク最適化でコスト削減を図りつつ、シェア低下や販売・サービスの利益減少を防止し、経営効率化を図ることが望まれる。
 そのためには車販売後経年と共にCSが低下する構造課題の解消に向け、顧客との対話機会を増やし、多少場所が不便になっても関係緊密化を実現できることが最も肝要である。またドライブタイムでも地域差、年齢差、現状店舗との距離に応じた許容限界など、諸要素の影響を織り込んだ科学的なデータ分析による検討も求められる。
 なお弊社現代文化研究所では、販売店のCS向上や商圏分析の手法に関し、個社単位での支援メニューの提供を始めたため、必要に応じご相談をいただければ幸いである。CS向上手法では、安価なCRMアプリ提供、流出防止のための顧客心理の把握・対応支援、実践的研修など、商圏分析手法では、市区町村別保有予測、マッピングを活用した店舗統廃合時の影響シミュレーションや防災対策等も含む店舗網最適化や商圏戦略強化のための分析支援などがある。(支援メニュー一覧はこちらをご覧になっていただきたい。

※11月に「自動車販売会社様支援メニュー(12種)」をリリースいたしましたの で、ご覧ください。

※本件に関する、ご質問、ご意見は、当ページの右上、または最下部のお問い合わせからお願い致します。