コロナ後の物流のあり方を考える

主任研究員 中野 直哉

新型コロナ禍で物流企業も大きな影響を受けつつある。一方、ニーズの変化に対応し、IT化で好業績を上げる企業も現れた。After/Withコロナの時代にはサプライチェーンにおける拠点分散化や倉庫業務のデジタル化、ワークシェアを進め、医療人材や物資の輸送にもきめ細やかに対応できる物流のあり方が望まれる。

新型コロナは物流企業にも大きな影響

After/Withコロナの新しい日常に向けモビリティが回復しつつある。広く利用されているGoogle COVID-19 Community Mobility Reportをフォローしていくと、鉄道・バス等の公共交通機関移動Transit stationsや通勤等移動を示すWorkplacesは5月末時点でベースライン(2020年1月3日~2月6日の中央値)比で大きく落ち込んでいるものの、5月上旬に底を打ち、25日の緊急事態宣言解除もあり、今後回復していくものと見られる。

一方、企業活動でみると、東京商工リサーチの「月次企業倒産状況」では4月に倒産した企業の内、10社に1社が新型コロナ禍の影響による「コロナ関連倒産」で、件数も3月に比べ約6倍に増えている。また業界別では帝国データバンクの影響度調査(4月実施、5月12日発表)では、新型コロナの感染拡大によって、不動産や運輸・倉庫の物流関係企業が苦しい状況にある。

※4月20日時点。帝国データバンク6月3日時点でコロナ関連倒産は214社。

運輸・倉庫の場合、「既に影響(がある)」と「今後影響」のトータルは不動産に次いで2位であるが、「既に影響」では不動産より高く、深刻度は高い(トップは未掲載だが小売業の72.6%。ただし「今後影響」では同業種は最も低く14.7%である)。

実際、物流ニュースLogistics Todayをみると2月以降、主に地方の中小運輸、運送会社等の破綻状況が自己破産、民事再生法申請、破産手続き開始等のかたちで約40社掲載されている。報道等では大手も宅配ではヤマトホールディングスが2020年3月期に純利益が前年比13%の減少となった。企業間配送事業の落ち込みのためである。

新型コロナ禍の中でも健闘する物流会社

ただし、ヤマトホールディングスの場合、個人向け宅配分野は3月に4%増加している。「巣ごもり消費」の増加を受けた格好だ。物流企業でもトナミ運輸を持つ富山県のトナミホールディングスは物流部門の減少を3PLの伸長で倉庫部門が補い、20年3月期をわずかなら増収としている。

さらに売り上げを拡大したケースもある。特許を取得した物流センター接車バース予約システムを運営する東京都・港区のHacobu(ハコブ)の2020年3月の受注は過去最高であったという。予約業務を対面予約でなくオンライン化したところに、新型コロナ感染防止のニーズがうまく当てはまった。

しばらくは新型コロナと共生せざるをえない状況の中で、新しい物流改革の波が加速していくことが予想され、B2C物流やサードパーティサービス、IT化への取組み等が、物流業の成長エンジンとなりそうだ。単なる運送事業だけではシステムの急激な変動を乗り切れないが、経産省の進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)や事業範囲の付加価値化は、危機を乗り切る可能性を秘めている。

After/With新型コロナでの物流産業の姿

米国ウォルマートやディズニーは店舗やテーマパークでの集客、グッズ販売の落ち込みをネット販売や動画配信事業で補った。ただし、物流ではその増加するネット販売を人間のドライバーが担わなければならない。となれば現場での感染予防対策に加え、サプライチェーンの見直しが感染予防と事業の効率化につながる。拠点の分散化、ドライバーチェンジ頻度の増加、物流センターでのピッキングのデジタル化支援等で人間の負担を減らす工夫が進展するものと思われる。

物流業界の構造的課題であるドライバー不足問題も、業界の垣根を越えた連携による効率化の動きが出てきている。広島県の食品物流大手ムロオは東京の日の丸リムジンと組み、自宅待機のタクシー運転手を埼玉県の物流拠点で配送や受注業務に起用する。運転手のワークシェアというわけだが、ワークシェアだけでなく、この危機を業界を超えた連帯と克服の思いで乗り越えていこうとする、希望あふれる取組みと言える。

こうしてオペレーションやインフラ、人員配置を見直したうえで、医療人材の移動や資材の輸送、ステイホーム時の食事宅配等の新たなニーズへのきめ細やかな対応が、After/With新型コロナの時代に求められる物流産業の姿となろう。

注)本文中の各企業等の業績等については日経他、業界ニュース等の各種報道等を参考としている。

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