防災のためのITS・VICS情報活用について
元VICSセンター 総務部事業調査室長・参与
現代文化研究所アドバイザー 安部信一
1.防災にシェア型自動運転車(SAV)による避難が有効!その実現にITS・VICS情報の活用が欠かせない!! ーー避難にSAV使用に期待。ITSの活用でより安全にーー
◇防災への対策は待ったなし!国内でも幾つか取り組みが始まっている。
近年の世界的気候変動で、日本でも防災への対策が喫緊課題だが、日本には台風や大雨被害が頻発し、山間部や河川が多いなど様々な災害要因が存在している。それらの頻度は増し、防災の対策を検討しているうちに、次の悲惨な災害が発生している。少しでも救える命を救うために、すばやく実現することが大事だと痛感している。このような状況の中、2024/9/27自動運転ラボに掲載された「交通弱者の避難にSAVを活用する」という以下の論文に注目した。
【論文名・発表者】
Leveraging Shared Autonomous Vehicles for Vulnerable Populations
during Pre-DisasterEvacuation
Jooyong Lee, Ph.D. (Kyonggi University),
Kara M. Kockelman, Ph.D., P.E. (The University of Texas)
【論文の要点】
・この論文は、自家用車を利用できない交通弱者のための戦略である。
・社会的弱者にとって重要なバス停留所までのファーストマイル(1.5km)に焦点を当てた。
・避難効率の向上にを目的に、シェア型自動走行車(SAV)の役割について検討した。
・結論として、スパコンを用いたシミュレーションで、ヒューストンでコストと効率を最適化するには、5人乗りの小型SAVを14人の避難者につき1台の割合で運行することがわかった。
・戦略的なライドシェアリングとスケジューリングによって、避難者の待ち時間と車両運行コストを大幅に削減できることが、本論文のシミュレーションによって導かれた。
←図で示されるヒューストンの赤黄色の危険な地域から、最寄りの避難用バス停を目的地(旗)として避難ルート(矢印)を想定した。
この研究で興味深いのは、ハリケーン時の交通弱者の避難に、シェア型自動運転車(SAV)を使用し、避難の効率向上が期待できる点。まさに今、高齢者の多い日本の地方の過疎地の被災を減らすための、効果的な避難方法の参考になると思われる。
Leveraging Shared Autonomous Vehicles
for Vulnerable Populations during Pre-Disaster Evacuationから引用
◇この内容を日本の現実に当てはめた考察 --具現化のためのSAV+ITS・VICS情報の活用--
このシミュレーションでは、交通流を考慮した経路探索、配車スケジューリングがなされる前提だ。実際に台風が接近中の数時間前の避難状況を想定すると、気象情報による対象地域の風雨の強まり時刻などから自動運転車の運行が可能か、運行するならどの経路がより安全かの検討が必要になる。その際、通行止め箇所や交通に関連する大雨情報などは、ITS・VICS交通環境情報が役立つ。このようにSAV+ITS・VICS情報の活用が、実現できれば日本で今まで避難が困難な交通弱者が、早めに安全が確保できる1つの手段となり得る可能性がある。現状は、防災無線が聞こえなかったり、避難所までの手段がなく仕方なく、家にとどまるという声を聞く。事前にリスクを把握し、効率よい順番で、こちらから迎えに行くことで、交通弱者だけでなく、より多くの人の安全の確保に役立つのではないか。
2.シェア型自動運転車による避難時にITS情報活用する際の課題
ーーなかなかすぐに実現できない要因、立ちはだかる3つの壁!!ーー
避難に自動運転車を使用し、ITS・VICS情報を活用するには次の壁(課題)が存在する。
①自動運転車を使うことの2次災害への懸念の壁
②各車メーカー、ナビメーカーと競争領域と協調領域のコンセンサスを得ることの難しさの壁
③自動運転車の運行に必要な交通環境情報を規定するための実験データ収集の壁
シェア型自動運転車による避難時にITS・VICS情報活用による、防災の早期実現には、課題の具体的なブレークスルーが必要であるが、各々に対し以下を提案する。
①自動運転車を使うことの2次災害への懸念の壁について
論文のSAVの経路プランニング時に、交通環境情報の一つとして、大雨地点情報や冠水地点情報を活用すると仮定する。実際の移動中の状況の変化、急な天候の変更などが原因で事故などが発生した場合、その責任の所在などが問われる可能性がある。これに対し一企業では対応が難しい。しかし産官学と多くの関連企業が考え方をまとめてルール化、標準化することで、安全性が向上しつつ、実現しやすくなるのではないか。加えて、さらに避難中の事故リスクを減らす技術開発が必要だが、次に役立ちそうな事例を紹介する。
◇「トヨタの衛星SARデータ浸水地域の検出時にプローブデータの活用予定」
これはスペースシフト社の衛星でとらえた映像から、浸水地域を察知し、その確度を高めるため、現在も普及しつつある車からのプローブデータを活用するという内容である。このプローブデータは、ある車の通行実績でもあり「ある地点を通れた」という情報として衛星データと併せて、浸水地点等の精度を高める用途と思われる。ただ、現状の通れたMAPは、主に地震発生時などWEB上で確認ができるにすぎず、カーナビゲーションの地図上では過去の冠水履歴が示される機能が一部に搭載されているだけだ。リアルタイムに確認できるものはあまり存在しないことから、実用化のメドがたてば、注目が集まりそうだ。一方、技術的には、信頼性高い通れた実績の情報を生成時に、その地点について1台だけでなく複数台の車の通過実績などでその精度を高める必要がある。また、実際はどんな大きさの自動運転車が通れるか、小型車のみ通れたか、大型車も通れたか等、車の大きさの情報も取得して、判断材料に加えることが安全性を高める上では望ましい。
2024/10/1 スペースシフト社のHPより引用 https://www.spcsft.com/uncategorized/1293/
②各車メーカ、ナビメーカと競争領域と協調領域のコンセンサスを得ることの難しさの壁について
①で「一企業では対応は難しい」と述べたが、それに対してのブレークスルーを述べる。
最近自動運転車にSDV(Software Defined Vehicle)というソフトウエアで機能実現し、必要に応じ通信などでアップデート可能とする手法が広く取り入れられ始めている。
SDVはソフトウエアの話しだが、密接な関係のハードウエアについては、自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)」が設立され、高性能デジタル半導体「SoC(システム・オン・チップ)」の共同開発プロジェクトとしてスタートした。トヨタ・HONDA・日産・スズキ・スバル・マツダという車メーカとルネサスエレクトロニクスなどの半導体会社が参加している。この取り組み自体はハードウエアであるSoC関連がメインのようだが、この協働の取り組みが、自動運転車への協調領域のソフトハード一体のプラットフォームとして、災害時の交通環境情報の各社共通の活用機会に進展しないかと期待している。SoCにも着目したのは、ITS・VICS情報の活用を想定すると、ソフトウエアで実現する機能処理の一部をハードに依存する可能性があり、両方の検討が必要だと思われるからだ。まずは、防災を目的とした交通環境情報の活用を組み入れることで、有事のみの適応を条件に、協調領域として、関連企業が纏まることができるのではないかと考えた。その上で通常時も適用できる部分をバージョンアップの過程で選択していけばよいと思われる。
2024/6/18 日刊工業新聞電子版「DENSOの挑戦 SDVはスマホの夢を見るか」より引用
図の「これから」のSDVのHMI・自動運転・コネクテッド部分に協調領域として、ITS・VICS交通環境情報の処理を組み込めば、車メーカー共通で運行に必要な気象情報、通行止め情報を標準として活用することが可能になる。
自動車用先端SoC技術研究組合 (ASRA) 2023/12/28 プレスリリース資料より引用
③自動運転車の運行に必要な交通環境情報を規定するための実証データ収集の壁について
実現へ関係者のモチベーションを高めることも必要だ。その実施効果・安全性・技術やHMIに関する課題解決に資する実証実験データ収集・分析を行い、具現化の可能性を示していくことで活動に参画しやすくなる。雪道などを考慮した永平寺の実証実験や、居住地域を含むWoven Cityの様な各地の自動運転実証実験の中で、SAV+ITS・VICSを使用した避難訓練実験と位置づければ、データ収集のよい機会になり得るのではないだろうか。さらに、ヒューストンや中国の災害による被害発生を鑑み、世界共通の課題として、これらの実験結果発表による成果の共有により、議論の発展や新たな工夫が生まれることが期待できる。
2024/2/28 国立研究開発法人産業技術総合研究所 RoAD to the L4 プロジェクト成果報告会資料から引用
2023/12/27自動運転ラボ 国内ニュースから引用
出典WOVEN CITY公式YouTube動画
◇最後に。将来、レベル4以上の自動運転全体へのITS情報の活用へ繋がる可能性について
次の図は、自動運転開発に対ししばしば示されるが、走行条件の限度が大きい場合の商用車・乗り合いバス・タクシーなどのレベル4以上が先に実現する。次に限定条件の少ない一般自家用車について、先の先行実験を参考に、全体の自動車運転社会が作り上げられていくという想定である。つまり、防災を目的にSAV+ITS・VICSに対する技術を実績とし、次のステップとして、一般自家用車へ取り込めば、自動運転社会全体へのスピーディーな実装にも、寄与できるのでないかと考える。
自動運転車の社会実装アプローチRoad-to-the-L4 HPより引用
注:本資料は執筆者個人の見解であり、使用する画像等の材料を含め、当社および当社と関連する機関等とは関係がありません。