オリパラは未来モビリティの見本市だ
主任研究員 田口一義
オリンピック・パラリンピック大会が、実は未来モビリティの見本市という側面があることをご存じだろうか。東京大会では選手や大会関係者の移動のため、トヨタがFCV、HVのほか自動運転EV「eパレット」など3700台の他、移動時間の短縮・渋滞・環境対策に向け車両の運行管理ノウハウを提供する。東京大会に続く北京冬季大会、パリ大会、ミラノ冬季大会、そしてロサンゼルス大会でも、続々と将来のモビリティデモンストレーションが計画されている。世界の耳目を集めるオリ・パラ大会は将来のモビリティ社会を経験する絶好の機会となる。
2022年の北京冬季大会は、水素エネルギーに注力
2022年は北京で冬季オリンピックが開催される。北京市中心街から北西75kmにある延慶区は主要会場の一つで、水素製造工場を建設中だ。選手・関係者・観客を輸送するFCVを使った公共交通がオープンする。同区には昨年、水素産業パークが誕生し研究開発から技術応用、産業育成まで一大産業への育成を目指している。
河北省は北京市と並び大会会場となっている。同省の張家口市は公共交通バスのクリーン化で温室効果ガス削減に取り組んできた。オリパラを見据え3000台のFCV導入と31カ所の水素充填ステーションの建設計画を進めている。豊富な風力や太陽光など再生可能エネルギーを活用し、水素生成から貯蔵・輸送、さらにFCセルやFCV生産まで一連の水素産業の構築を、スポーツの祭典を契機に加速させる考えだ。
長城汽車は大会に合わせ同社初のFCV投入を目指す。河北省保定市工場でFCV中核部品を製造するという。なお今年、東京都が導入するFCバスは100台ほどだ。
2024年のパリ大会は、コンパクトで高効率な移動を実現
2024年大会はフランス・パリ開催である。スローガンは「sharing」でパッション、ヴィジョン、イノベーションを共有するという。五輪開催までに「内燃エンジン車が姿を消し、自動運転シャトルバスが一日中行き来する『クルマ社会を脱した初の大都市』へ変貌する」と、パリ市のミシカ副市長は展望する。
全ての観客が公共交通あるいはシェア交通、自転車、徒歩で会場に向かうこと、大会チケット保有者には、交通システムを無料解放すること、排ガスゼロ・バスを運営すること等を大会主催者は重視する。会場の85%は、オリンピック選手村から半径10km圏内に配置され、選手のゼロエミッション車による移動時間は30分に抑える。観客の75%の移動は自転車で30分内に抑えるという。
大会開催までにディーゼル車の走行を段階的に禁止する。従来型のガソリンエンジン車も2030年をめどに禁止する。仏政府は2040年までにディーゼル・ガソリン車の販売を禁止する方針を示したが、パリ市は、さらに野心的な目標を掲げた形だ。
2026年のミラノ冬季大会は、包括的MAASと環境車を重視
2026年冬季はイタリア・ミラノで開催される。地域の既存公共交通との連携を通じて自由な移動を実現する。持続可能な交通サービスとしてのMAASが2026年までに導入される。スマホなどを通じた特別な移動パッケージ商品が発売され公共交通、自転車シェア、カーシェア、カープール、タクシー等が一つのアプリで利用可能になるという。
大会地域のバスの半分がEV、25%がHV、残りがEuro6対応ディーゼルバスになる。大会終了後の2030年にはEV100%となる見込みだ。自動運転EVが会場や選手村などを結ぶ。大会期間中の物流・メンテナンス関係の車両は環境車で夜間運行とする。大会地域内の荷物の最終目的地へのラストマイルは、ゼロエミッション車が担うという。
2028年のロサンゼルスは、環境車と交通需要マネジメントでCO2削減
2028年の五輪はロサンゼルスで開催されることが決定している。大会開催までCO2排出量を現在から25%削減することを目指す「ゼロエミッション2028ロードマップ」を同市は発表している。大会開催までに「市内を走る乗用車の3割(新車の8割)をEVとする」、「トラックの4割を排ガスゼロ車とする」、「EV用公共充電設備を8万4000基整備する」、さらに「一人乗り車両を2割減らし、排ガスゼロの公共交通機関/バイク等の利用に移行させる」こと等を掲げている。官民が連携して排出ガス削減に取り組むとしており、自動車メーカーとしては日産/テスラ/BMWや中国BYDが同ロードマップ推進に参画している。
大会期間中、交通需要マネジメントの考えに則り移動量の最小化、公共交通・自転車・徒歩の利用促進、渋滞する場所と時間帯の回避を徹底し、環境に最大限配慮することを徹底するとロサンゼルス市は述べている。
10年後のオリパラ大会はどんな未来のモビリティ像を映し出すか
EV・FCVなどの電動車、コネクテッド・自動運転などの新技術、新しいモビリティ手段の登場、さらに複数の移動手段間のシームレスな快適移動を可能にするソフトウエア技術などが、東京大会以降も続々と登場する。そして、日本オリンピック委員会は、2030年の冬季オリパラ候補地として札幌を選出し、10年後日本で再び未来モビリティの見本市が開催される可能性がある。
オリパラ参加選手達の活躍や各国の成績を追いかける楽しみに加えて、未来モビリティがどう発展進化を遂げていくのか知る絶好の機会として、これからのオリパラから目が離せない。
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