市場構造変化に対応するディーラー経営の方向性について

~ユーザー調査や統計分析を踏まえた考察~

弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の2024年2月号に寄稿したレポートをご紹介いたします。

 日本社会は、人口減少や少子高齢化の進行、潜在成長力の鈍化が続く一方、デジタル化の急速な進展等もあり、人々の価値観も中長期的に変化が進んでいる。

 また自動車市場も、電動化をはじめ、CASEの進展が世界的に加速すると見込まれており、自動車ディーラー経営も市場環境の構造変化の影響を大きく受けるものと予想される。

 そこで今回は、弊社が実施している全国自動車保有ユーザー調査(Webモニター調査)や各種の統計・調査データを引用しながら、中長期的な市場構造変化に対応するディーラー経営の方向性について検討し、参考に供したい。

1.中長期的な免許保有者の減少が保有減少に影響の見込み

 弊社の自動車保有ユーザー調査では、「自家用車がないとかなり困る」人の比率は全国平均でも84%に上り、地方部ほど重要なライフラインとなっている。

 周囲で高齢者の運転を見かける頻度も明らかに増えており、「高齢者の事故防止対策」に関しては、約7割の人が「非常に必要」と回答している。

 「身近で運転中止した人の実績年齢」の回答では、60代から90代まで個人差が大きい特徴があるが、平均は76才で、以前の調査時からさほど変わっていない。

 60代以上の回答者が「自分が安全運転可能と思う上限年齢」の平均値も76才で、なかでも75才という回答が33%を占めていることが特徴である。75才以上の免許更新手続前に、認知機能検査と高齢者講習の受講などが義務付けられることも関係していると思われる。それを踏まえると、2025年までに団塊世代が全て後期高齢者になることによる免許及び車の保有者数への影響が今後想定される。

 そこで各年代別の現状の免許保有率を据え置きとして、人口母体が変化する影響をシミュレーションすると、全国の免許保有者数は、30年には4.7%減、35年には7.6%減となる。(図1)

2.経済的な余裕度の低下で、保有期間延長傾向が持続

 全国家計構造調査のデータ(二人以上世帯)では、世帯主年齢別の世帯の純貯蓄額は、2019年時点で10年前に比べ、全年齢層で減少。特に20~40代は、長期的に減少が続き、いずれも負債超過となっている。住宅・土地のための負債額増加が主因で、持ち家志向の強さと価格の上昇が大きく影響している。(図2)


 消費スタイルに関する質問の選択肢の中では、「節約への意識」が最も多く挙げられ、普段の生活で節約を意識している人は、約8割にのぼっている。

 車の購入・保有コストへの資金的余裕では、「保有期間は伸びるが、車へのコストは止むを得ない」が32%と多く、「車の購入や保有のコストはかなり負担に感じる」が26%と続く。従って、自家用車は必要だが、物価や車両価格の上昇の影響もあり、保有期間を延ばすことで調整する人が多いとみられる。(図3)

 なお現保有車の予定保有期間の平均は8.4年で、保有期間が前保有車より「長くなる」見込みの人は38%に対し、「短くなる」は6%で、長くなる人の方が多い。

 保有期間が長くなる理由では、「車の品質向上」と「将来不安による生活防衛」が主因となっている(図4)

3.若者の価値観では、自動車の位置づけの低下が続く

 博報堂生活総合研究所の「生活定点」調査によると、20代の若年層が「よくするスポーツや趣味」では、30年前は「自動車・ドライブ」が1位(50.7%)だったが、22年の18位(13.2%)まで低下を続けた。上位5つは「動画視聴」「映画鑑賞」「漫画・アニメ」「音楽鑑賞」「モバイルゲーム」で屋内指向が主体。

 一方、「お金をかける対象」では、30年前は「車」が2位(27.8%)だったが、22年の17位(7.8%)まで低下している。美容が3位に浮上し、男性の関心も高まっている模様である。(図5)

 今後の若年層は母数も減少し、車の位置づけも低下が続けば、将来の保有市場の懸念要因ともなる。 

4.顧客の愛着を獲得できる人財力がディーラーの今後の生命線に

 これまで見た市場構造の変化要因に加え、車の電動化が世界的に進む見込みの中、販売粗利やサービス単価の減少などの影響も懸念される。将来ディーラーの経営は激変期を迎える可能性があり、その前までに生き残りのための力を蓄えておくことが肝要である。

 今後ディーラーの生命線となるのは、顧客に最も近い立場の優位性をフルに発揮すべく、「人財力」の強化を通じて「顧客からの信頼、愛着」を獲得し、そうした顧客層の厚みによって経営の基盤を強固とし、時代の変化への耐性を高めることと考える。

 そうした経営を支えてくれるロイヤルティ(忠誠度)の高い顧客を増やすにはどうすれば良いのであろうか?

 そこで、現保有車の購入先を積極的に利用する理由(複数回答)から、それを見ると、「担当者が丁寧に対応してくれて信頼できる」が62%と最も重要な基盤となっている。さらに総合評価が9点以上、又は紹介実績や意向がある人は、「整備の技術力」「担当者に何でも相談でき親しみを感じる」「自分の車の状況をよく把握し適切な提案」「店舗全体に信頼感」などでも高い評価を得ていることが特徴である。一方、「価格の安さ」「引き取り納車対応」「営業時間の都合」などは、評価ポイントにはなっていない。(図6)

 

 これらから、プロとしての専門的スキルへの信頼がベースとなり、人間的な親しみ・愛着が加わって高いロイヤルティが形成されているようである。顧客の立場に立ち親身に寄り添える「人間性」のファクターが最重要と考えられる。

 信頼が高まるほど、ユーザーから貴重な情報が集まり、それを的確なサービスの提案力に活かす好循環も生まれる。

 売り手・買い手の関係を超えた心の交流にまで高まれば、心強い応援者・ファンとして、無料で信頼度の高い広告宣伝機能まで担ってくれる。

 総合満足度9点以上の人では、整備や用品購入の年間総支払額の8割以上を獲得できており、満足度が低い顧客との取引額の格差は顕著である。家族や知人への紹介も含め、優良顧客は長い時間軸で多くの恩恵を与えてくれる。

 なお保有ビジネスのカバー率を高める上で、メンテナンスパックは特に有効であり、調査対象の車保有者の46%が加入しており、加入者の満足度も平均で4.1点(5点満点)と好評である。

 さらに、今後はデジタル技術の力を借り、限られた人財での業務効率を最大化し、また顧客情報を組織全体でリアルタイムに共有・一元管理し、サービスを高度化する方向性も重要となる。

 例えば、車購入後の購入先との連絡方法の希望では、全体平均でもeメール(41%)、DM・ハガキ(33%)、電話(22%)の順となっており、若い世代や都市部は、特にデジタル媒体を望む傾向が強い。

 また入庫予約も、ホームページやアプリ上で完結できるなどの利便性が望まれており、業務効率化にも直結する。

5.地域貢献とその文脈でのビジネス強化で、自社の存在意義と働き甲斐を向上

 今後のディーラー経営では、カーボンニュートラルへの対応も重要となる。自社活動に伴う温室効果ガス排出量の把握と削減はもちろん、日本の温室効果ガスの15~16%は自動車の走行から排出されるため、顧客接点であるディーラーへの役割期待は、極めて大きいといえる。

 そこで、ユーザー側の意識の現状に関する調査結果を紹介する。

 各ユーザーの自車走行による温室効果ガス削減への協力意向では「既に意識し て協力している」と「最大限協力できる」を併せて20%。「ある程度なら協力できる」の43%を併せると63%。一方で、まだよくわからないという人が25%存在し、今後の啓蒙活動が望まれる。(図7)

 ディーラーが「エコカーへの買い替えやエコドライブの推奨など積極的・丁寧な説明をする」ことに関しては、「好感を持てる」という人が約2/3にのぼり、啓蒙活動は望まれている。(図8)。

 特に、20代、3大都市圏中心部、電動車保有者などで、協力意向やディーラーの説明への好感度が高い傾向がある。

 ディーラーが脱炭素実現のために積極的努力をすることは、地域住民の好感度を高めるSDGs活動になると共に、最新のエコカーへの代替促進を通じ、自社のビジネスに直結した成果が得られる。

 またエコドライブの推奨も、保有市場全体の視点から実効性の高い重要な対策になると共に、顧客の信頼感を高める有効な交流手段にもなる。

 そうしたSDGsの活動強化は、企業イメージ向上はもちろん、優秀な若年人材の吸引定着にも有効になるだろう。

 目先の利益追求に終始せず、顧客の幸福度増進に働き甲斐を見出せる人財の確保と育成が可能になれば、将来の地域課題解決に必要となる新ビジネス開発の上でも大きな力を発揮し、自社の存在意義と永続性を高めてくれるだろう。

 そうした人財の活躍は、魅力を感じられる職場環境や成果を挙げやすい仕組みを会社が整備することが大前提となるが、それに応えて生活者の思いを深く洞察した高度な提案力で、収益力も高めてくれるだろう。何が起こるか分からない時代になるほど、人財の質が企業の浮沈の鍵を握ることになると予測する。

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