現地で親しまれるブランド戦略に向けて~コカ・コーラは日本のブランドか?
コカ・コーラを好む人は少なくないだろう。筆者もその一人である。過日、中国に10日ほど出張の折は毎日飲んでいた。帰国後はしばらく控えていたが、いつの間にか頻繁に手にしている。日本でも中国でも、コカ・コーラはどこにでもあり、手軽に入手できる。
コカ・コーラはもちろん米国のブランドである。1886年ジョージア州に始まり*1、ニューヨーク証券取引所に上場している。しかしコカ・コーラを日本のブランドだと思っている日本人がいるのではないか、と思い立った。中国へ赴いた際の問題意識が、外資が同国で受け入れられ、必要とされる施策を探るためであり、それにはどうしたらいいか、とずっと考えていたからである。
注)*1 「誕生」は1886年、「ザ コカ・コーラ カンパニー設立」は1892年(日本コカ・コーラ株式会社「コカ・コーラの歴史」による)
1.コカ・コーラは日本のブランドか?~自主調査から~
調査に当たり、自分の経験から以下の仮説を立てた。
- コカ・コーラはどこでも買え、日本での歴史も長く、魅力的なTV CMも多い。親しみ感は強いだろう
- 少なくとも1割程度は、コカ・コーラが日本のブランドだと思っている人がいるのではないか
- その背景は、コカ・コーラがほかの飲料商品に比べ、体験や想い出と結びつくことが多いからではないか
- したがって、消費者の情緒に訴え記憶に残すのが得策だろう…
子供の頃や学生時代など、部活や友人、仲間との集まりでコカ・コーラを飲んだ人も多いだろう。筆者の場合、80年代後半からバブル期の頃によく流れたTV CMと、その中で使われた曲がずっと印象が強いままである。
まず、コカ・コーラはどの程度の頻度で飲まれているのだろう? 簡単なアンケート調査を行ったところ、結果は以下の通りである。
2019年1月実施。全国約2千人の男女対象のインターネット調査(協力:株式会社クロス・マーケティング。以下断りない場合すべて同様)。
意外に少ない、というのが正直な印象であった。まったく飲まない人も3割もいる。では「よく飲む」または「たまに飲む」人は何を飲んでいるのか。
「よく飲む」「たまに飲む」人は全体の3割強、数にして700人程度だが、そのうちの半数が「オリジナルテイスト」である。カロリーや保存料がゼロだと謳う「ゼロ」と合わせ、この2種類で8割超である。ほかの種類は筆者もはっきり言って馴染みがないし、一般的にもそうなのだろう。
次はコカ・コーラに感じている気持ちである。
「よく飲む」「たまに飲む」人の8割超が何らかの親近感を感じているようだ。
すると、意外に日本のブランドだと思っている人も多いのではないか。結果は以下である。
14%である。自分で1割と予想したものの、本当だろうか……? さすがに米国と回答した人が圧倒的に多いが、しかし、「わからない」と回答した人も7%いる。
「日本」と回答した人の背景要因に関し、コカ・コーラにまつわる印象深い体験や想い出を、自由回答で訊いてみた。
すると中高生時代の思い出や部活に関係すること、「サッカーの応援でみんなで飲んだ」等のスポーツにまつわる思い出、「昔からある」、「日常的に身近にある」といった回答が多かった。これらの回答は「米国」と正答した人にも見られたが、やはり青春期の想い出や身近さはあるブランドに親しみを感じ、自国のブランドだと思ってしまうことと関係があるのではないか。
2.日本市場での位置づけ
日本ブランドだと“勘違い”(?)するには、シェアやボリューム要因も影響するだろう。日本では多種多様な飲料が販売されているが、コカ・コーラはシェア5割と想定した。公表データではあるが、以下のような数字が得られた。
⑤清涼飲料水市場メーカー別シェア (2017年、乳製品・栄養ドリンク等除く)
注)市場規模全体は約3.7兆円、内コカ・コーラは約1兆円である
出所)流通ニュース(2018年6月12日web掲載記事を加工)
想定に反し、約1/4であった。ただし炭酸系では5割というので、感覚的には合っていたようだ。やはり自国ブランドだと思われるには、それなりのシェアも必要である。
ブランド力も一昨年と昨年では順位を上げている。
⑥ブランド知覚指数消費者評価ランキング
出所)日経MJ 2018年9月19日掲載記事(日経リサーチ「ブランド戦略サーベイ2018」)。各企業またはブランドのスコア及び当該調査の詳細は割愛
飲料業界の状況は厳しいようだが、市場規模は人口減にあって踏み堪えている。その中で単価100数十円から数百円の商品で1兆円を売り上げるコカ・コーラはなかなかのものではないか。
⑦国内飲料市場の規模と成長率
注)メーカー出荷金額ベース。2018年度は予測値。上図では健康系飲料、乳系飲料を含み、前掲⑤に係る清涼飲料水市場規模約3.7兆円とは一致しない
出所)矢野経済研究所「飲料市場に関する調査(2018年)」(2018年8月29日)
コカ・コーラの利益率はどうか。薄利多売であろうと想定したが、営業利益率は5%近い。本家米国はもっと高いという。一方、同業のサントリー食品インターナショナルより低く、規模や海外比率、業種等はまったく異なるが、製造業の代表、トヨタ自動車とは比べるべくもない。ここでは掲載していないが、キャッシュフローも、当然といえばそうだが、段違いである。
⑧コカ・コーラ等の財務指標比較
注)ここでは東証1部上場で日本最大のコカ・コーラボトラーのコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(CCBJ)の財務指標を使用している。EPS、BPSは円。営業利益率、純利益率、自己資本比率は%。それ以外は100万円。CCBJは2017年12月期日本方式、サントリー食品は2017年12月期IFRS、トヨタ自動車は2018年3月期SEC。
出所)ここでは3社とも便宜的にYahoo!JAPAN ファイナンス(2019年2月6日時点)のデータを使用した
市場の成長性も限定的で、利益率も高くない状況では、コカ・コーラのできる対応策としては値上げしかあるまい、と12月のある日、そんなことを考えていた。
すると忘れもしない、その翌日の12月21日。日本経済新聞朝刊に「コカ・コーラ値上げ」の記事が掲載された。筆者は驚いた。筆者の案はオリジナルテイストのみ20円程度値上げする。ラベルやボトルにも高級感を出し、他の種類と差別化する。オリジナルテイスト以外、ほかのラインナップがわかりにくいからである。しかし日経の記事では、まず大型ペットボトルから値上げ、と書かれていた。そして当日の株価は素直に反応し上昇した……。
確かに大型ペットボトルの方が、価格弾力性は小さいかもしれない。大きいから、心理的に気にならない、という可能性もある。小型の、普通サイズが20円上がると「何だ、この価格は?!」と思う人も多いかもしれない。しかしロイヤルユーザーはどうだろうか。飲料業界の都合や事情には疎いが、ブランド強化策と収益性向上を同時に図る手があるのではないか……。コカ・コーラ愛好者の一人としては、コカ・コーラにとっては余計なおせっかいだが、他人事とは思えないのである。
こんなことを考えるユーザーがいるということは、コカ・コーラはある意味、やはり日本のブランドになった、ということだろうか。
● 御意見・お問合せ先
report-ml@gendai.co.jp
株式会社 現代文化研究所 主任研究員 中野 直哉 (なかの なおや)
本記事(社員コラム)は、日常の調査・研究活動にて得られた情報、視点により、弊社社員が独自にまとめたものです。当社の見解や立場を代表するものではないことをご了承下さい。