定性調査(Qualitative Research)とは
定性調査:主観的なデータや質的な情報を収集し、理解しようとする調査手法
定性調査は、人々の意見、態度、行動、経験、思考パターンなど、主観的な側面を探求するのに適しています。以下に定性調査の特徴と手法を説明します。数値や統計的な数値データではなく、言葉/文章/観察記録/インタビューなどの非構造化データ*を重視します。定量調査とも組み合わせ、様々な調査シーンで広く活用されています。
*非構造化データ(Unstructured Data):一定の形式や構造を持たないデータ。例)テキスト文書/画像/音声/ビデオ/ウェブページなど。
定性調査は、人々の意見、態度、行動、経験、思考パターンなど、主観的な側面を探求するのに適しています。以下に定性調査の特徴と手法を説明します。
特徴
質的な情報の収集
定性調査では、個別の参加者やグループからの詳細な情報を収集します。参加者の意見、感情、経験などを深く理解するため、開放的な質問や自由な回答を重視します。
詳細な洞察の獲得
定性調査は、参加者の言葉や観察結果を詳細に分析し、パターンやテーマを抽出します。これにより、参加者の背後にある意味や理解を探求し、深い洞察を得ることができます。
コンテキスト*の理解
定性調査は、調査対象の行動や意見を特定のコンテキストや状況に関連付けて理解します。参加者の行動や意見がなぜ起こるのか、どのような要因が影響しているのかを明らかにすることができます。
*ある事物や情報を理解するために必要な背景や関連する要素、状況等
主な手法
インタビュー(DPI:デプスインタビュー等)
参加者との対話を通じて情報を収集します。構造化されたインタビューや半構造化インタビュー*を行い、参加者の意見や経験を深掘りします。
*半構造化インタビュー(Semi-structured Interview)
- 社会科学や研究の分野で広く使用されるインタビューの形式の一つ。構造化インタビュー(Structured Interview)と非構造化インタビュー(Unstructured Interview)の中間に位置する。
- 構造化インタビューでは、あらかじめ決められた質問が厳密に順序どおりに行われる。非構造化インタビューでは、明確な質問項目がなく、自由な対話の流れによって進められる。半構造化インタビューでは、インタビュアーはあらかじめ決められたテーマや質問リストに基づいて対話を進めるが、インタビュイーの回答に応じて柔軟に追加の質問や追究を行うことができる。
- この形式のインタビューは、深い洞察や詳細な情報を引き出すことができ、インタビュイーの意見や経験をより詳細に把握することができる。したがって半構造化インタビューのメリットは、対話の柔軟性と参加者の自由度となる。インタビュイーは自身の意見や経験を自由に表現でき、インタビュアーは重要なテーマや質問をカバーしながらも、フローを調整したり探究的な質問を追加したりすることができる。 研究やデータ収集の場で、特に主観的な意見や複雑なテーマを扱う際に、半構造化インタビューは効果的な手法とされている。リサーチャーはテーマの重要な側面をカバーしつつ、同時にインタビュイーの個別の経験や視点を引き出すことができる。
フォーカスグループインタビュー(FGI)
小規模なグループで意見や経験を共有するディスカッションを行います。参加者同士の相互作用により、洞察を深めることができます(近年はインタビュー含めFGIもオンラインでできるようになっています)。
観察(行動観察等)
参加者の行動や状況を直接観察し、記録します。研究者が現地に出向いて観察を行う場合や、ビデオやオーディオ録画を使用する場合があります。
定性調査の位置づけ
分析
テーマの抽出
収集したデータを詳細に分析し、共通のパターンやテーマを抽出します。参加者の回答や観察結果を比較し、重要な概念やトピックを特定します。これにより、参加者の共通の考え方や傾向を理解することができます。
コード化*とカテゴリー化
データを分析する際に、関連するテーマや概念に対してコード(ラベル)を付けます。類似した意見やパターンを同じカテゴリーに分類し、比較やパターンの特定に役立ちます。
*コード化(Coding)
研究やデータ分析のプロセスで使用される手法の一つ。特に質的データ(テキスト、インタビューの記録など)を分析する際によく用いられる。テキストデータから主題やテーマ、パターン、カテゴリなどの意味的な要素を抽出して整理するプロセスとなる。
手順
コード化は、質的データのテキスト分析やパターンの抽出を容易にし、洞察やトレンドの特定を支援するための重要な手法である。研究者や分析者は、コード化されたデータを用いてテーマやパターンの分布や関係性を把握し、質的データからの有益な情報を引き出すことができる。また、コード化されたデータはさまざまな分析手法や可視化手法に適用することができる。
説明と解釈
抽出されたテーマやカテゴリーを説明し、解釈します。参加者の意見や行動の背後にある理由や意味を推測し、深い洞察を得るために理論的な枠組みや文脈を活用します。
報告
分析結果を報告書やプレゼンテーションの形でまとめ、顧客等関係者等と共有します。洞察や結論を明確に伝え、参加者の声や視点が反映されるようにします。
定性調査は、数量化できない主観的な情報を重視するため、より詳細で深い理解を得ることができます。また、質的データを量的データと組み合わせることで、より総合的な洞察を得ることも可能です。
重要なポイントは、参加者の声や視点を尊重し、データの分析や解釈に注意を払うことです。定性調査は主観的な要素が係わってくるため、前提や分析者等のバイアスに注意を払い、公平性と信頼性を確保するとともに、顧客等の納得性を得ることが重要となります。
⾏動観察(エスノグラフィー)とは
⾏動観察(エスノグラフィー*):定性調査の一つ。対象となる個人やグループの行動を直接的に観察し、記録することによってデータを収集/分析する方法
*エスノグラフィー(Ethnography):
- 行動観察調査は文字通りの英語であればBehavioral Observation Study等となる。ただ、マーケティング・リサーチには人文/科学等から多様な手法が取り入れられ、当調査も文化人類学的な「民族(Ethno)・誌(graphy)」学的アプロ―チとなっているため、海外でもこの用語が使用されている。
- 民族誌(誌=記述、の意):ある民族の特徴を調査するためにその民族の生活に入り込み、長期間にわたって観察/コミュニケーションを取り、文化や行動様式を記録する。レヴィ=ストロース「悲しき熱帯(Tristes Tropiques / 1955) 」等が有名。
行動観察調査が有効なケース
行動観察調査は、さまざまな業種やブランドにおいて課題や仮説の発見に役立つ手法です
小売り業
消費者の購買行動や商品の選択プロセスを理解するために行動観察調査は有効です。商品陳列や店内レイアウトの効果、顧客の接触ポイントなどを観察し、購買意欲や消費者のニーズを明らかにすることができます。
サービス業全般
サービス提供中のスタッフと顧客の相互作用を観察することで、顧客満足度やサービス品質の向上につなげることができます。顧客対応の質、コミュニケーションのスタイル、サービスの効率性などを観察し、改善点やトレンドを把握することができます。
商品開発
新商品やサービスの開発において、顧客のニーズや利用シナリオを把握するために行動観察調査が有効です。顧客の使用状況やフィードバック、問題点や改善点の発見、市場のトレンドなどを観察することで、製品やサービスの開発に関する有益な情報を得ることができます。
ホテル・旅行業
ゲストの滞在体験や行動パターンを理解するために行動観察調査が活用されます。フロントやレストランでの顧客対応、施設の利用方法、顧客の満足度などを観察し、改善点やニーズを把握することができます。
教育・学習環境
学生や教育機関における学習行動や教育環境を観察することで、教育プロセスの改善や学習効果の向上に役立ちます。授業参加者の関与度や学習スタイル、教材や教室の利用方法などを観察し、教育の質や効果的な教育方法を理解することができます。
物流
運送の小口化や荷主ニーズの多様化に伴う需要増大、環境規制への対応、IT化の推進など、物流を取り巻く環境が激変しつつあります。またドライバーの時間外労働の上限が規制される「2024年問題」が迫る等、「物流クライシス」が危惧されています。 こうした状況で実際に物流現場、例えば宅配業務等での行動観察により、業務効率化や顧客満足度の向上、競争力の強化など、危機を乗り越えて事業の成長等を実現するヒントが得られる可能性があります。
行動観察調査はさまざまな業種やブランドにおいて、顧客の行動や意識、需要の把握、サービス品質の向上などに活用されます。具体的な課題や仮説に対して、行動観察調査を適切に適用することで、洞察を得ることができます。
フォーカス:宅配業務における行動観察調査
プロセスの改善 | 宅配業務の行動観察によって、配送員の行動や作業プロセスの問題点やボトルネックが明らかになります。これにより、改善点や効率化のための提案が可能となります。例えば、時間の無駄を減らすためのルート最適化や作業手順の改善などが挙げられます。 |
サービス品質の向上 | 行動観察によって、配送員の態度や接客スキル、商品の取り扱い方法などが評価できます。これにより、サービス品質の向上につながる改善策やトレーニングの必要性が明確になります。顧客満足度の向上やブランド価値の向上につながる可能性があります。 |
安全性の向上 | 宅配業務では、配送員が交通事故や怪我を起こすリスクが存在します。行動観察調査によって、配送員の安全意識や安全運転の実践状況を評価することができます。問題がある場合は、安全教育や適切な装備の提供など、安全性向上のための対策を講じることができます。 |
顧客ニーズの把握 | 行動観察調査は、顧客のニーズや要求事項をより深く理解するための手段としても活用できます。配送過程でのトラブルやクレーム、配送時間帯や受け取り方法に関する要望などが明らかになります。これにより、顧客ニーズに応えるための改善や新たなサービスの提供を行うことができます。 |
競合分析と市場動向の把握 | 宅配業務の行動観察は、競合他社の実態や市場動向を把握するための手段としても役立ちます。競合他社の配送員の動きやサービス品質を観察し、自社の位置付けや差別化のポイントを見極めることができます。さらに、顧客の嗜好みや利用傾向についての洞察も得ることができます。これにより、競合他社との差別化やマーケティング戦略の立案に役立つ情報を得ることができます。 |
プロセスのコスト削行 | 行動観察調査によって、配送員の行動や作業プロセスを詳細に把握することができます。これにより、無駄な時間やコストが発生している箇所を特定し、効率化のための施策を講じることができます。例えば、配送ルートの最適化や作業手順の見直しによって、燃料費や人件費などのコストを削減することができます。 |
スタッフのトレーニングや教育 | 行動観察調査によって、配送員の能力や課題を把握することができます。これに基づいて、必要なトレーニングや教育プログラムを設計することができます。例えば、配送技術の向上や接客スキルの向上など、スタッフの能力向上につながる取り組みができます。 |
ブランドイメージの向上 | 行動観察調査によって、配送員の行動や態度が顧客に与える印象を評価することができます。配送員のプロフェッショナリズムや丁寧さが、ブランドのイメージ形成に大きな影響を与える場合があります。適切なトレーニングや指導を通じて、顧客に対する良好な印象を形成することができます。 |
当社の行動観察調査事例
当社は実際に宅配業務におけるドライバーの行動観察調査を実施しました。配送センター出発からお届け、センターへの帰還まで現地現物的に同行し、その行動をシームレスに観察、記録をとり、ドライバーの生の声や配送車両の活用実態等の把握と課題解決に向けた改善点の提案等を実施しました。
手順とガイドライン
調査の目的の確定
行動観察の目的を明確にし、調査対象の特定領域や行動パターンに焦点を当てます。
調査計画の作成
調査のスケジュール、場所、必要な資源、参加者の選定、データの収集方法などを計画し、実施の前に関係者と共有します。
調査項目の設定
調査対象の行動や要素を具体的に定義し、観察すべきポイントを明確にします。これには、特定の行動パターン、行動のタイミング、特定の状況や環境などが含まれます。
調査方法の選択
適切な調査方法を選択します。一般的な方法には、実地観察/インタビュー、映像録画/音声録音などがあります。選択する方法は、調査の目的とリソースの制約によって異なります。
調査対象の選定
調査の対象となる人々や対象物を選びます。これは、特定のユーザー(またはユーザーグループ)、特定の場所、特定の時間枠などを考慮して行います。
データ収集
選択した方法に従って、調査データを収集します。観察対象者の行動や反応を注意深く観察し、必要な情報を記録します。可能な場合は、ビデオ録画や音声録音等も行います。
データ分析
収集したデータを分析し、洞察を得ます。データを整理し、共通のパターンや傾向を特定します。意味のある観察結果を抽出し、調査の目的に関連するインサイトを見つけることに重点を置きます。統計的な手法や可視化ツールを使用して、データを解釈しやすくします。
結果の報告
調査結果をまとめ、報告書やプレゼンテーションなどの形で関係者に提出します。報告では、調査の目的、方法、収集したデータ、分析結果、洞察、推奨事項などを明確に記載します。結果を理解しやすくするために、映像や映像カット、音声データ、グラフや図表といったビジュアル表現も活用します。
アクションプランの策定支援
調査結果に基づいた改善策や施策等の立案段階では、当社は問題点を解決するための具体的なアクションプランの作成支援を行います。アクションプランは、調査の目的に対して有効な改善を行うための手順やスケジュールが含まれます。
フォローと評価
アクションプランの実施後、結果を評価し、効果を確認します。当社はフォローアップの調査や追加の観察を行い、改善策が課題を解決したかどうかを確認します。必要に応じて、さらなる調査や改善策の見直しを行います。
行動観察調査では、調査対象者のプライバシーや個人情報保護に十分な配慮が必要となります。調査の前に必要な許可や承諾の取得が重要となり、関係する関係者や参加者に対して調査の目的やプロセスを十分に説明し、了解を得ることが必要となります。
データの収集や分析に使用するツールや方法は、調査の目的や要求に適したものを選択します。適切なツールや方法を選ぶことで、データの質や信頼性が向上します。
モバイル・エスノグラフィーとは
モバイルエスノグラフィー(Mobile Ethnography)は、スマートフォンやビデオカメラなどのモバイルデバイスを使用して、参加者の日常的な行動や環境を観察・記録する調査手法です。
- モバイルエスノグラフィーでは、参加者が日常的な活動を自身のスマートフォンやビデオカメラを使って記録します。これにより、リアルタイムでの行動や環境を捉えることができます。
- 参加者は、ビデオ撮影、写真撮影、音声録音、テキストメッセージやソーシャルメディアの投稿などを通じて、自身の経験や感じたことを記録します。
モバイルエスノグラフィーのメリット
リアルタイムなデータ
消費者の購買行動や商品の選択プロセスを理解するために行動観察調査は有効です。商品陳列や店内レイアウトの効果、顧客の接触ポイントなどを観察し、購買意欲や消費者のニーズを明らかにすることができます。
自然な環境
参加者が自身の環境で行動を記録するため、より自然な状況やコンテキストを捉えることができます。人工的な研究環境や研究者の介入が少ないため、より本来の行動や意見を観察することができます。
モバイルエスノグラフィーは、消費者行動や商品使用の研究、市場調査、広告効果の評価、ユーザーエクスペリエンスの向上など、さまざまな領域で活用されています。
参加者のリアルな行動や体験を捉えることで、より深い洞察や理解を得ることができます。
例えば、消費者の購買行動や商品の使用方法を直接観察し、製品改善やマーケティング戦略の最適化に役立てることができます。
具体的な利用例
商品やサービスの使用体験の理解
被験者が自身のスマートフォンやビデオカメラを使って、商品やサービスの使用体験を記録することで、その製品やサービスの利用状況やユーザーエクスペリエンスを把握することができます。
例えば、ユーザーがどのように製品を使用しているのか、どの機能が役立っているのか、どのような問題や課題があるのかなどを観察することができます。
ショッピング体験の分析
モバイルエスノグラフィーを使用して、消費者のショッピング行動や店舗訪問の様子を観察することができます。例えば、店内のレイアウトや陳列方法がどのように顧客の行動や購買意欲に影響を与えているのか、商品の選択プロセスや購買決定にどのような要素が関与しているのかなどを観察することができます。
モバイルエスノグラフィーは、参加者が自身の日常生活や行動を自然な状況で観察・記録することにより、リアルなデータを収集する手法です。これにより、より具体的で客観的な情報を得ることができます。