全市区町村のうち半分弱で、2030年に乗用車保有台数が20%以上減少
~2025年、30年、35年の乗用車保有台数を市区町村別に予測~

 弊社上席主任研究員、黒岩祥太が、正規ディーラーの全国組織である一般社団 法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の12月号 に寄稿したコラムに関し、レポートの詳細版をご紹介します。

概要

 トヨタ自動車グループのシンクタンクである株式会社 現代文化研究所(GENDAI Mobility Research、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鈴木知)は株式会社 日本統計センター(Nippon Statistics Center、本社:福岡県北九州市、代表取締役社長:加来伸一郎)とともに、国内の「市区町村別乗用車(軽乗用車含み)保有予測」を実施した。
結果、分析対象となった1733市区町村*のうち、2030年には半分弱の813市区町村で、2035年には6割弱の1097市区町村で、2019年に対して20%以上保有台数が減少することが予測された(図1)。

 なお1733市区町村を足し上げた乗用車保有台数の総数は2019年の6170万台に対して2030年で約-10%の5555万台、35年で約-13%の5362万台と予測された。地域別にみると北海道・東北地方及び中国・四国地方が2019年に対して30年でそれぞれ約-16%と約-12%、35年でそれぞれ約-22%と約-16%となり、保有台数の減少率が大きかった。逆に関東地方及び中国地方が2019年に対して30年でそれぞれ-7%と-9%、35年でそれぞれ約-9%と-11%となり、減少率が緩やかであった(図2)。

 減少の主たる要因の1つは保有母体となる人口の減少であり、仮に各市区町村で1人あたりの乗用車保有率が維持されるとしても、2019年に対して30年で約-6%、35年で約-10%の減少になると試算される。関連して、警視庁交通局の運転免許統計によれば、運転免許保有者数に関しても、1969年以降2018年までは約50年にわたって毎年増加を続けてきたが、2019年に減少に転じた。
これに加え、75歳以上のいわゆる後期高齢者人口比率の上昇やDID(市街地)人口比率の上昇などが1人あたりの乗用車保有率に負の影響を及ぼすと推計される。特に2022年から24年にかけては人口のボリュームゾーンである「団塊の世代」が75歳以上となるため、乗用車保有率の低下がより進行することが考えられる。
 以上を踏まえ、各地域とも、新車・中古乗用車の販売、メンテナンスサービスなどの他、保険や金融、それに郊外の大規模小売店や飲食業のロードサイド店にいたるまで乗用車の保有に影響を受ける企業は、乗用車によって来店できる地域住民の将来的な減少を見据えたビジネスの検討を迫られると考えられる。
*福島県双葉郡に属する7町村及び相馬郡飯館村で乗用車保有台数などに不明値が存在するため全国保有台数とは一致せず。

予測の考え方

 既存データにおける各市区町村の乗用車保有台数と人口から、市区町村ごとに1人あたりの乗用車保有確率を算出。国勢調査などに基づく2005年~15年にかけての各市区町村に関する時系列のパネルデータを用い、1人あたりの乗用車保有確率と人口構成・社会・経済環境との関連をロジスティック回帰分析にて定量モデル化。人口構成・社会・経済環境が類似する市区町村は保有確率も類似してくるという仮定と2035年にかけての5年ごとの人口・社会・経済環境の変化予測、それに2019年での実際の保有確率に基づき、各市区町村の1人あたりの乗用車保有確率の予測値を推計。この推計値に国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口の推計値を乗じることで、市区町村別の保有台数予測値(理論値)を導出。最後に直近(現状では2019年)の市区町村別保有データで理論値と実績値の誤差を導出し、予測値(理論値)に反映させることで最終的な予測値を構築。

予測の限界

 乗用車の保有には人口構成や人口密度など、見通しが比較的容易な人口動態的要因が強く関連し、イレギュラーな社会変動や景況などは新車需要とは異なり、それほど強い影響を及ぼさないと経験的には考えられる。したがって現在の予測値はあくまで入手できる既存の人口構成・社会・経済データとその将来シナリオの範囲内での推計とはなるが、ベースラインの把握材料としては一定の確度を持つと考える。一方で新型コロナ騒動が社会や経済に与える影響の織り込みはこれからとなる。またシェアリングサービスなど移動ビジネスの革新的な展開によって更に乗用車の保有が低下する可能性や、一方で、後期高齢者にも扱いやすい安全な自動運転システムの登場と法整備などによって保有が維持される可能性、更には使われなくなった保有車の廃車処理などが滞ることによる、見かけ上の保有維持・上昇の可能性なども考えられる(最新の市区町村別データによって随時補正の予定)。

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担当: 株式会社 現代文化研究所 黒岩 祥太 (くろいわ しょうた)